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アオガシマトリップ#010「最後の夜」

2015.06.18      Translation of author 日本語

 

大里神社からそのまま僕らは大凸部に行くことにした。今回の青ヶ島トリップで最後の夕焼けは島の最高地点から3人で楽しみたかったのだ。大凸部に着いたときには少し時間も遅く、はっきりとしたサンセットが見えるコンディションの空ではなかった。しかし、むしろ絶妙の雲が出ていたおかげで、希少な2重カルデラを持つ絶海の孤島のマジックアワーを360度思う存分堪能できた。

空の色が絶え間なく変化し続け、それに呼応するように海や島が刻々と表情を変えていく。太陽の光がその力を失うとこの絶海の孤島でも人工の光がそれなりに力強く主張を始める。そして、美しいグラデーションに彩られた西の空には、太陽と入れ替わるようにとてもきれいな三日月が姿を見せた。

それはとても美しく、濃厚で、忘れがたく、ありがたく、貴重な、いつもどおりの時間の流れ ―――――。

 

 

マジックアワーを満喫した僕らがサウナに入って汗を流し宿に戻るとすでに夕食の準備ができていた。宿の宿泊客が皆で食べるスタイルは前の日と同じだった。でもメンバーは前の日から変わっていて、また全く違う雰囲気だった。当たり前だが空間はそこにいる人によって雰囲気が大きく変わる。

その晩、初めて顔を合わせたボーリング工事関係の方々は、農業用水に使う井戸を掘るために島に来ているらしかった。すでに3か月間掘っているがまだ水が出ず、さらに期間を延長して掘り進めているのだという。のんびりした時間の流れで自然が豊か、というだけでは語ることのできない離島環境の厳しい一面を垣間見ているように思える話だ。

そんな話を聞きながら、毎夕食時に「あおがしま屋」さんから無料で提供される青ヶ島で作られている焼酎「青酎」の杯を重ねる。おいしい夕食を共にし、青酎の杯を重ねて打ち解けた僕らは、食後、そのまま一緒に島で唯二の居酒屋である「もんじ」に行こうとボーリング工事関係者のうちの一人の兄ちゃんに誘われた。

 

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「あおがしま屋」の女将さんが作ってくれる夕食はとてもおいしい。サービスも満点で完食するのがちょっと大変と思ってしまうほどのボリューム感で提供される。当然お腹はいっぱいだった。また、そのおいしい夕食を食べている間、僕らはずっと青酎を飲んでいた。もちろん、すでにかなりの酔っぱいぶりだった。だから体調的にはそのタイミングから居酒屋に行くというのは普通に考えれば無理があった。それでもこの旅の最後の夜に「島の居酒屋」に行ってみたい欲求には逆らえず、誘われるままに外へ出た。

「あおがしま屋」から居酒屋「もんじ」は目と鼻の先にある。一応「もんじ」と記された木製の控えめな看板らしきものは掲げてあったが、昼間に見たときにはほとんど主張はなく、そこが居酒屋だとは思えなかった。夜になり、その木製の看板がライトで照らされると、一応、なんとなくお店っぽい感じもするが、外からでは中の様子は想像しにくい。

初めての地で中の様子が想像できず、お店かどうかも半信半疑な建物のドアを開けるのは勇気がいる。自分たちだけならちょっと躊躇してしまいそうだが、何度も「もんじ」に来ているという兄ちゃんは躊躇することなくそのドアを開けた。開いたドアから中を覗いて驚いた。すごくたくさんの人がいる!

外から見るとたいして主張を感じなかった居酒屋「もんじ」だが、ドアを開けるとそこはびっくりするほどの村人でにぎわっていた。この島にこんなに人がいたのかというほど人がいる。そしてみんなでカラオケをしながら盛り上がり、その場をとても楽しんでいる。絶海の孤島・青ヶ島の居酒屋がこんなにも盛り上がっているとは全く想像していなかった。

この雰囲気を感じることができただけでも「もんじ」に行ってみてよかったと思う。ヘリコプターが発着するヘリポートや、定期船が発着する三宝港と同じように、村人がみんなで集まって酒を飲む居酒屋も、この島のいつもの風景なのだろう。

 

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そういえば、「もんじ」の客の中にはヘリコプターに乗っていた時にやたら表情が暗くて気になった男性の姿も見えた。酒の席でも決して明るい表情には見えない。でも、多くの島の人と一緒にわいわいとやっているようだ。単に暗い表情に見えやすい顔つきなだけかもしれない。ヘリコプターでも別に暗くなっていたわけではなかったのかもしれない。

そして最終的には、その男性と観光客の女性が、どうやら連絡先の交換でもしているような様子も見えた。意外とよろしくやっているのかもしれない。普段はそんな場面を見ると「けっ!」と思ってしまいがちだが、その時はなんだか少しほっとした。

実はもんじで吞みながら、島にまつわる(人間関係のなかでも特に男女関係にまつわる)ディープな話をたくさん聞かされ、その時はちょっと引いてしまった。全員が顔見知りになってしまうような小さな島の人間関係はそれはそれで難しいこともあるようなのだ。でもまあ人間なんだからいろいろあって当然だよな、と今は思える。そんないろいろな事情を抱えながらも毎日のようにみんなで飲むのが青ヶ島のひとつの日常ということなのだと思う。その居酒屋には青ヶ島の“今”があるような、そんな気がした。

人が生きていくということが、きれいごとばかりな訳はない。僕らはディープな話に続いて、村長さんと話をしたりしながら飲み続けた。絶海の孤島で飲んでいると、清濁併せ持ちながらサバイブしている人間の生きざまがリアルに見えてくるような気がした。

そもそも誰が「清」とか「濁」とか決めるんだろう。そんなものはどっかの誰かの価値観であり、たくさんある中のひとつの価値観に過ぎないはず。この絶海の孤島で生き抜くというのは、清も濁もなく、ただ尊くて強いことだ。日本酒の残っているグラスに誤って青酎をなみなみと注がれてしまっても、気にする風でもなく笑顔で飲み干す村長さんを横目に見ながら、ひとりで自分と対話する。そして僕は「もんじ」が閉店するときには、もうどっぷりと酔っぱらっていた。

「もんじ」を出た後、最後の夜なので星空を撮影しようという話になった(ようだ)。酔っぱらいすぎて半分よくわかないまま同じ宿に泊まっているメンバーと一緒に、池ノ沢に連れて行ってもらった(ようだ)。だが、カメラのピントを合わせることもできないほどに泥酔していた(ことは覚えている)。ただカメラを構えたまま、ふらふらとあたりをうろつき、空を見上げた。蒸気のあがるカルデラの中から見る満天の星空は幻想的でとても不思議な光景だった。

 

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ほとんどまともに写真を撮ることができないまま池ノ沢を後にして、どうにかこうにか宿に送り届けてもらった(ようだ)。部屋に戻って服を脱ぎ、崩れ落ちるように布団の中へともぐりこんだ。目をつぶると暗闇の中で世界がぐるぐるとまわっていた。港で見たコントラストの強い風景や、居酒屋での喧噪や、大里神社のお面や、満天の星空が脳裏に浮かんではすぐ消えていく。

いつまでも頭の中がゆらゆらと止まることなくうごめいている。

まるで昼間に崖の上から眺めた視界いっぱいに迫ってくる、あの大海原を漂っているかのようだった。

 

(完)

 

 

 

 

 

 

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