リシリレブン#007 「秘境とよばれるところ」

2015.02.10      Translation of author 日本語

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礼文島でのトリップを終え、東京へ戻る途中、僕は高速バスで移動していた。その高速バスは稚内から札幌を目指すもので、稚内からオロロンラインを通って南下しているところだった。ちょうど、夕暮れ時でバスの右手には利尻島に夕日が沈むところだった。

その夕日をながめていると、つい先日歩いた宇遠内の記憶が蘇ってきた。

宇遠内。その聞き慣れないオトと見慣れない漢字の並びに違和感を覚えつつも、時に心地よく感じられる場合がある。

その違和感と心地良さを行ったり来たりしながら、海岸線を歩き宇遠内に辿り着いた。

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その宇遠内にはいくつかの建物があり、その建物の前には小舟が留まっていて生活の香りがした。雁木や堤防がコンクリートで整備されていて、このような日本の最果ての秘境でもしっかりと固められていると思うと少し残念な気持ちになった。

とはいえ宇遠内という場所は、礼文島の西側にある集落で舗装路が整備されていない場所で、ここに訪れる手段は船か徒歩かのいずれかになる。礼文島の中でも秘境と呼ばれる場所だ。このような場所は、現代の日本では極めて貴重な場所となってしまった。

モータリーゼーションが到来する前、舟運が日本の交通を牛耳っていた時代があるという。実際に江戸時代の東京の絵図を見ても、都市の中を毛細血管のように運河が張り巡らされ、水辺が都市と自然を有機的に繋いでいた。その時、水辺で有機的に繋がれた都市や集落ではどんな時間が流れていたのだろうか。そんな妄想が、僕を宇遠内へと運んだ。

建物の前に着くと、そこに初老の夫婦がいた。歩いてきた僕の姿を見て、ゆっくり休んで行けと、言ってくれた。

その建物には「食堂ひとやすみ」と書かれた看板が脇に掲げられていた。とはいうものの、食堂を営んでいる様子はまったくなく、ガランと開きっぱなしになった入口の奥に食堂形式の机と椅子が並べられていた。

僕は持参したおむすびをその食堂の机を借りて胃の中へ押し込んだ。おむすびを食べていると、女将さんが漁に出る旦那を見送り食堂へ入ってきた。

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その女将さんにお話を聞くと、どうやら小樽との二重生活をしているそうだ。漁が盛んな時期は、礼文島の宇遠内で過ごし、漁の厳しい季節になると小樽へ戻り、次のシーズンへ向けて心身ともに静養するそうだ。なんとも豪快で自由で多様な暮らしを営んでいるという。そのライフスタイルを確立したのが、ほんの数年前で、お父さんは還暦を前に漁師になることを決断したそうだ。多様なライフスタイルを求める現代社会にはなりつつあるが、このような人生の選択肢もあるものかと人生の持つ活力を垣間見た気がした。

果たして、20年後の僕らの世代がこのような自然環境の厳しい条件のなかで自然と向き合いながら営みを維持していく技術や知恵が残っているのだろうか。その技術や知恵を次の世代に受け渡すことができるのだろうか。宇遠内でのひとときで多くのことを考えさせられる結果となった。

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毎日、西の海に沈む太陽を眺めているという。

「良し悪しはないが、好き嫌いはある。」という言葉を聞いたことがある。これは多くのことに当てはまると思っていて、特にライフスタイルには強くその言葉が当てはまると思っている。

礼文島の秘境と呼ばれる宇遠内で営むライフスタイルに良し悪しはないと思うが、ただ、このキレイな夕日を毎日眺めることが出来ると思うと、「これで十分」と思ってしまったりもする。

オロロンラインを走る高速バスの車窓から夕日を望み、もう一度「これで十分」と心につぶやいた。

 

 

 

 

 

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