リシリレブン#006 「礼文の森」

2015.02.03      Translation of author 日本語

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ただ歩きたくて、僕は礼文島の8時間コースを歩いてみることにした。礼文島には整備されたトレイルがいくつかあって、そのなかで最も長いトレイルが「8時間コース」と呼ばれるものがある。総延長約16kmで礼文島を縦断するコースだ。それとは別に「愛とロマンの8時間コース」と呼ばれるトレイルも存在するが、こちらの言われについてはまた別の機会に記したいと思う。(機会があればの話だが、、、)

その日の空にはうっすらと白い雲がかかっていて、トレッキング日和という天気ではなかった。だけれども、歩きたい衝動を抑えることをできずにいた僕は、その日に島で過ごす時間を歩くことという行為に使うことにした。

礼文島北部の浜中という場所から少し南に行った未舗装路から僕は歩きはじめることにした。その道には車が進入しないようにゲートがたてられていて、草原の中にポツリと立つゲートが何とも滑稽でしかたがない。このゲートで記念撮影をして、僕の礼文島歩きがはじまった。

見渡すかぎりの草原の緑と雲に覆われた灰色の空との間に僕はいる。僕の足元は薄い土色の未舗装路で、辺りには幼い子供の握りこぶしくらいの小石がごろごろと転がっていた。その道は一本道で、僕の足元から灰色の空まで延々と伸びている。

海から吹く風は強く、その風に乗って霧が目の前を通り過ぎている。その雲の移りゆくスピードは新宿駅のプラットフォームを歩くビジネスマンのように速く、颯爽と駆け抜けてゆく。時折、満員電車から吐き出された乗客がホームに雪崩れ込むように、辺りは濃霧に包まれた。

その視界は悪く、1m先が見えなくなるほどだった。その先が見えない不安の中、颯爽と駆け抜けるビジネスマンのような霧の隙間から顔を出す高山植物が僕の道しるべとなってくれていた。

鮮やかに光を放つその姿を頼りに僕は歩むことができた。

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2つほど丘を超えたころには、目の前を遮っていた霧は消えていた。そのころには草原の中に続く一本道が笹の藪道へと変化していて、その背丈以上に伸びる笹のトンネルを進んで歩いた。その笹に覆われた道を歩いていると、ふと鹿児島の硫黄島を思い出した。硫黄島も大名竹と呼ばれる笹のようなものが多く分布していた。そのような特異な植生が優勢な風景こそ、「シマ」にとってのアイデンティティになるのかもしれない。そんなふうに遥か遠くの南の島を思い浮かべながら北の島をテクテクと歩いていた。

その笹の風景の向こう側に針葉樹の森が見えた。その森の風景に僕は少し驚いた。礼文島は一般的に「お花畑」と言われるように、草原に高山植物が咲き乱れる島として有名だ。そのお花畑の先に森がある。そんな思い込みを胸にしまい込み、僕は森へと足を踏み入れた。

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森に足を踏み入れると風は止み、森特有の匂いと静づけさがやってきた。鼻をツンとつつくような針葉樹の匂いとその森に住まう生態系のオトを聞きながら、スタスタと歩いた。あまりの心地良さにトレッキングシューズであるにもかかわらず走りだしてしまったほどだ。

ときおり視界が開けると、向かいにある山の斜面に森が広がり、その森の表情はとてもみずみずしい緑色をしている。その緑は僕を歓迎してくれているようで、僕の心は小踊りをしていた。

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