リシリレブン#001 「その感じ」

2014.12.27      Translation of author 日本語

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ふと目を覚ますと眼下に湖が見えた。機体が離陸した時の記憶は薄く、離陸後の気圧の変化と共に眠りについてしまったようだ。その眼下に位置する湖がどこの湖なのか寝惚けていると、まもなく大きく湾曲した海岸線に景色は移り変わった。その海岸線は弓を引いたように湾曲した海岸線で、その円弧はとてもなめらかで、しばらくのあいだ見とれてしまった。そして、その特徴的な海岸線と市街地の広がりや周辺の山脈を眺めているとその市街地が青森市であることが分かった。その空間理解に必要な作業は、目の前に広がる視界の中に記憶の片隅に眠っている脳内の日本地図をサブリミナル手法のように1コマ1コマ入れ込む作業になる。この作業を繰り返し行なって、脳内の地図に当てはまると空間を理解した実感を得ることができる。

その景色は、クワガタムシのように突き出した下北半島とその南側に広がる八甲田山や奥入瀬渓谷などの深い森が特徴的だ。その時、それまで眺めていた湖が十和田湖であったことに気がついた。そのまま、六ケ所村の再処理工場や恐山を見届けると、いよいよ北海道が見えてきた。

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田園風景の中に格子状に道路が配置されたその風景はいかにも北海道らしい風景だと思う。その直線的な道路構造を眺めていると、脳裏には「開拓」という言葉が思い浮かんでくる。その言葉はとても冷たい感じがして、北海道の物悲しさを感じてしまう。本州から希望をもって新たな生活を求めて、計り知れないくらい寒い北の大地にやってくる。そんなイメージだ。とはいえ、今の北海道にはそんなイメージをもっていないし、むしろ広大な余りある自然は羨ましいくらいだ。そんなワクワク感とちょっと冷たい感じを携えて、新千歳空港に着地した。

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この旅で巡る島は、利尻島と礼文島の2つだ。前回の旅では八重山の島々を巡った。八重山の少し早い夏を味わった後に、また季節は逆戻りして少し肌寒いその感じがまた楽しみでもあった。どのくらいの体感気温なのか想像しつつ、バックパックにフリースや化繊のダウンを忍び込ませるその行為が楽しい。そんなことを思い返しながら、利尻島行きのフライトを待った。

利尻島と礼文島を訪れるのは、この旅で二度目だ。一度目に訪れたのは2006年の7月以来、実に8年ぶりとなる。ちょうどドイツワールドカップが開催されていたその時で、ジーコジャパンがグループリーグ敗退となったあの大会だった。その大会の決勝戦は、引退を前にしたジダンを擁するフランス代表とカンナバーロを中心にカテナチオを構成するイタリア代表の戦いだった。決勝戦の前夜、僕は友人と礼文島のキャンプ場で野営をしていた。翌朝、一人の男性の叫び声で目を覚ました。その叫び声は、聞きなれない言語で怒りと悲しみに溢れていた。その彼は同じキャンプ場に野営をしていたフランス人男性だった。何があったのかと彼に近づくと、ワールドカップの決勝戦でジダンが頭突きをして退場をし、フランスが敗退したことを悔やんでいたのだ。そして、僕らは彼の怒りに満ちた表情からフランスが敗退したことを悟ったのだった。そうやって僕の2006年のワールドカップは意外なかたちで幕を閉じた。

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利尻島へ間もなく着陸する機体から、礼文島を眺めていると8年前の旅が鮮明に蘇ってきた。そうやって過去の記憶を思い返しているうちに、またワールドカップイヤーに最北端の島へやって来てしまったことに気がついた。

機体は無事に利尻空港に着陸し八年ぶりの上陸を果たした。機体から降りると、目の前に利尻富士が雄大にそびえている。同じ便で利尻島に到着した乗客は機体を降りるなり記念撮影を始めている。同じ便にのる乗客の殆どはシルバー世代が多く、おそらく僕が最年少の乗客だったのだと思う。その感じは、沖縄の離島とはかけ離れた雰囲気でとても穏やかでまったりとしている。CAは速やかに到着ロビーへ向かうよう促しているが、彼らは撮影をやめることはなかった。これだけ立派な稜線を魅せつけられてはしょうがないことだと思う。そして、僕もその流れに便乗してファインダーをのぞきフィルムを巻いて、パチリとシャッターを切った。

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空港で預けた荷物を受け取り、あらかじめ予約をしていた宿を歩いて目指すことにした。というのも、バスやタクシーが空港に配備されている訳でもなく、送迎の申し込みを忘れただけだった。しかたなくGoogleMapで民宿の位置を確認すると、徒歩圏内であることが分かり僕らは空港からトボトボと歩き始めた。

空港から歩いて移動している観光客は僕ら以外にはいなくて、空港周辺の閑散とした雰囲気と穏やかな北の島のその感じを堪能しながら民宿までの道程を楽しんだ。途中、近道をしようと脇道を選んだ。その脇道は舗装されていない砂利道で程よいローカル臭にワクワクした。辺りは草むらで、遠くには古ぼけたサイロがある。この先にはとうてい民宿があるとは思えない道を延々と歩いていた。少し汗ばむほど歩いた時、左手に鳥居が表れ一台のタクシーが止まっていた。僕らは運転手に民宿の位置を訊ねた。その運転手は、中年の男性で程よく日に焼けている感じが漁師のような雰囲気で少し堅物そうな感じがした。その風貌は男性的で、角刈りと西部警察のようなサングラスがキマっていた。その風貌とは裏腹に、とても親切な物腰で丁寧に民宿の場所を教えてくれた。その佇まいがあまりに島らしくてグイグイとその雰囲気にのまれていった。

民宿の場所が分かり安心した僕らは、おじさんに御礼を言って、トリップ恒例のお参りへと向かった。その本殿までの道程は一般的にみられる神社のアプローチとは異なり、鳥居をくぐると右手に折れる参道だった。それは、神社によく見られる階段や傾斜(男坂や女坂)によるものではなく、城郭の御門にみられるような直角に曲がるタイプのアプローチだった。そしてその先に、本殿が現れた。

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本殿では、初老の男性二人が催事の準備に精を出していた。僕はその親父さん達に挨拶をして、本殿にお参りをした。準備のかたわら親父さん達に話を聞くと、明日が部落のお祭りでその準備の最中にお邪魔してしまったようだ。その親父さんは、本殿の中で掃除機をかけながら、ぶっきらぼうに説明してくれた。本殿の中をちらりと覗くと、獅子舞の様な黒いお面が置いてあるのが見えた。親父さんにお願いをして本殿の中に入れてもらい、一角の角が生えた黒いお面(鬼のような獅子のような)をまじまじと眺めた。そうしているうちに、親父さんが一升瓶を持ってきて「飲め」とグラスを差し出した。「ありがとうございます。」とそれだけ答えると、グラスには並々と黄桜が注がれた。昼から黄桜はヤバイなと感じつつも、そのお神酒を丁重にいただくことにした。

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