生きた地球に会える島

2014.10.17     Translation of author

 

「何故、村役場で働いてるの??」

僕の経歴を知った人はたいていそう尋ねる。

 

「島に惚れたんです。」

最近はこう答えるようにしている。

 

僕は1年前まで研究所で働いていた。地質学を専門として、過去の地球の姿を紐解く研究をつづけてきた。「地層」や「地形」という証拠から、数千年前、数百万年前に起こった出来事を読み出す。そのために研究室ではなく野外で、地形や地層そのものと対峙する時間を多くとってきた。時には炎天下の離島で、時には極寒の南極で、そして時には地中海の洋上で、地球と対峙する作業を続けてきた。そうして僕が向き合ってきた地球は、長い時間をかけて化石となった「何かが起こった痕跡」の部分だった。

 

2011年の年末、僕は南極に居た。昨年博士号をとったばかりではあったが、運良く国立極地研究所の研究チームに加えてもらい、南極内陸部の調査に参加していた。

「将来の地球温暖化で、南極の氷はどのくらい融けてくるのか?」これを予測するためには、過去の気温上昇によってどのくらいの量の氷が融けてきたのかを知る必要がある。最新の手法を用いてこれを調べるのが、チームのミッションだった。

 

ピッケルを雪面に突き刺し、アイゼンを蹴り込む。もう一歩、蹴り込む。ピッケルを抜き、先の方にまた突き刺す。時間をかけて、一歩ずつ確実に斜面を登る。時折足をとめて、眼下の景色を確かめる。登ってきた斜面の向こうには荒々しく割れた氷河が横たわり、はるか北へとむけて氷の地平線をみせている。氷と岩石のみの世界。生物のいないこんなにも殺伐とした風景なのに、美しいと感じるのは何故だろう。そんなことを考えながら数時間をかけて斜面を登りきると、そこには驚くほど広々とした平地が広がっていた。

 

20141012_Oiwane01

 

山頂の平地。これこそが僕たちの登山の目的だった。南極の内陸では雨が降らない。だから雨による浸食は起こらない。この平地は、氷河が山頂を削ることによってのみできる。だから山頂に平地があることが、「昔、この高さまで氷河があった」という証拠になる。

「地形」は何も語らないが、そのものが文字通り「動かぬ証拠」なのだ。

 

 

僕がこれまで、地質学や海洋地質学を通して向き合ってきた地球の姿は、そういう「動かない地球」の部分だった。

しかし薩摩硫黄島は圧倒的に違っていた。地球は生きている、まさにそのことを実感させてくれるのがこの島だ。同じ場所に立っても日々、違う景色に出会うことができる。

山頂の噴気の量。噴気が流れてゆく方向。温泉によって染まった海の色。海流に流されてそれが描く模様。夕日や朝日に照らされて輝く山の色。これらが日によって、時間帯によって、季節によって刻々と変化する。さらには最先端の機器を駆使した観測も、次々に新しい現象を見せてくれている。

 

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薩摩硫黄島は、圧倒的に「生きている地球」を感じさせてくれる。日々変化するその姿は、「動かない地球」を相手にしてきた僕にとって麻薬のようなものだ。

 

 

「島に惚れたんです。」

生きている地球の姿に触れることが、僕の魂を喜ばせてくれる。

 

これが、僕が村役場で働いている理由の半分。

残りの半分は…また今度。

 

 

プロフィール
大岩根 尚

大岩根 尚

1982年生まれ、宮崎県出身。
三島村役場定住促進課/地球科学研究専門職員。
地質学、海洋地質学を学び、2010年に東京大学大学院で環境学の博士号を取得。
卒業後は国立極地研究所に勤務し、第53次日本南極地域観測隊として南極内陸部の地質調査に参加。
2013年10月に三島村役場職員に転身。「地球を学び、地球と遊び、地球を体感できる場所」を作るため日々奮闘中。

島歴:西表島、甑島列島、ラスパルマス島、イースター島、タヒチ諸島、ニューブリテン島、五島列島、奄美大島、天草諸島、壱岐、相島、阿嘉島、ハワイ諸島、モーリシャス島、グアム島、隠岐諸島、薩摩硫黄島、竹島、黒島、種子島。

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