ヤエヤマトリップ#003 デイゴの赤(西表島)

2014.10.14      Translation of author 日本語

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翌朝、僕らは西表島のヘソを目指した。
それは、噂で耳にしたマヤグスクの滝をこの目で確認するためだ。
その聞きなれない「マヤグスク」という単語が「マヤ文明」のようなミステリアスな雰囲気をかもしだしていたし、
ジャングルの奥にあるというその秘境めいたところに僕は惹きつけられた。

マヤグスクという単語の意味を解読してみると、それは八重山の言葉であり、
マヤは「ネコ」、グスクは「城」の意味であり、合わせて「ネコの城」という意味だそうだ。
西表島のネコといえば、イリオモテヤマネコのことを指す訳だから、その意味を聞いてから、僕はマヤグスクの滝に神々しさを抱いた。
それは、北海道でよく耳にした「カムイミンタラ」という言葉の意味にどこか似ていたからだ。自然を崇拝するその思想観に心を打たれた。
(カムイミンタラは、アイヌの言葉で「神々の遊ぶ庭」という意味があると聞いた。アイヌの方々は、ヒグマを神の化身と考えることから、深い森などはそのように呼ばれていることがあるそう。)
そんな想いをもって、僕はマヤグスクを目指した。

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トレッキングコースへ向かう途中、デイゴの花が咲いていた。赤がとても綺麗だった。
僕は、マヤグスクまでのジャングル・トレッキングを前に少し緊張していたけれど、有名な歌に出てくる花を目の前にして、その花の赤さに少し恥ずかしくなった。

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マヤグスクの滝へは、島の北西に流れる浦内川からアプローチした。
浦内川は、沖縄県で一番長い河川だ。海水と淡水の混ざる汽水域が広く、ヤエヤマヒルギなど数種類のマングローブ林が河岸にみえた。
川から望む景色はとても野性的であり、また程よいスケール感だ。計画的に敷設された都市の道路の様な直線的なあの鋭さはない。
どこまでも自然で有機的で目にやさしい。心なしかそこに吹く風までも、やさしく感じられる。観光船を運転する若者は、健康的な浅黒さで気だるそうに運転している。
船員は淡々と目の前に広がる景色を解説している。自分はそれをホウホウと聞きながら、ぼんやりと西表の野生を眺めていた。

上流の船着場から整備されたトレイルを歩くとカンピレーの滝がある。
カンピレーの滝は、八重山の神々の集まる滝と呼ばれていて聖なる滝として名が高い。
八重山の神様にまつわる小話があるという。がそれはまた別の機会に話すこととする。
カンピレーの滝から、西表島を横断する西表島横断路に入る。そこから先は、密林が続きトレイルの判別が難しくなる。
そこから先には、西表島らしい密林が広がっていた。

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ジャングルは風が抜けず、とにかく蒸し暑い。じわじわと体力を消耗していくことになかなか気が付かない自分がいた。
この道は、かつて天候が崩れたり、海が荒れて船で移動出来ない緊急の時に島の人々が使用していた道だそうだ。
反対側の集落で、急な出産が必要になった時にはお産婆さんがジャングルをかきわけて集落まで駆けつけたという話があったという。
なんともたくましすぎる話に、自分の弱い一面を見つけてしまった気がした。

その森には、多様な種類の動植物がひしめき合って生息していた。
そして、その空間は、生命感に溢れ、本州の森とは一線を画す生態系に包まれていた。
そんな当たり前のことを思いながら、スタスタとジャングルを掻き分けて歩いた。
動植物のサイズ感が全く異なるし、耳から入るサウンドも、ときに臭う野生な香りもまた刺激的だった。
いつもとは違う森の表情に触れて心が踊る。
完全なる未体験ゾーンに、知識や自分の中で確立された感覚が壊れ、ジャングルハイ・モードへと突入した。

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ジャングル・ハイモードに入って感覚が研ぎ澄まされてきたころ、マヤグスクの滝に到着した。
その滝は、いわゆる鯉が滝を登るような滝ではなく、マヤのピラミッドのように人工的で階段上に形成された滝だった。

僕らが島に入る数日前から快晴続きでイタジキ川の水量は通常の三分の一程度の量だった。
その晴天続きが功を奏して、僕らは簡単に滝に近づくことができた。これほど水量が少ないときは珍しいという。
僕はココぞとばかりに滝壺に飛び込み、清らかな冷たい水で身体を禊いだ。
水量が少ないとはいえ、滝の水圧はなかなかのもので、狭い洞窟のような空間を見つけては潜りこんで、修行僧のごとく西表島の水を浴びまくった。その刺激は言葉にはならない。

人の身体の60%は水分で出来ているというが、清らかで確かな水圧のある水を浴び続けていると、身体のくたびれた水分がリフレッシュされ躍動しはじめているように思えた。

ひとしきり禊ぎ終えた僕らは水量の少ない階段上の滝を登ることにした。
階段上の石幅は20cm〜30cmで足の大きさと同じくらいで登りやすく、自然の摂理の中で形成されたとは思えないほど平らに削られている。

水量の多いときに来てしまえば、このような体験は出来なかったと思うとどれだけこの旅が運のある旅かと思う。

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階段上の滝を上がると舞台のような平らに広がった空間になっていた。
いまにもバレエの演舞がはじまりそうなくらい、広がりのある空間だった。
その空間は、イタジキ川の浸食によって半球のドーム状に削りとられていて、
天から差し込むひかりとひんやりとした暗がりがほどよく混ざりあって、ピンとした背筋が引き締まるような冷涼感があった。

さらに滝の上流を眺めると人が二人並んだくらいの川幅までせばまり、激流が続いていた。
水量が少ないと言われるこの日でさえ、気を抜くと流されてしまいそうな水圧だったけど、好奇心に身を委ねて、奥へ奥へと進んでいった。

激流の岩場をていねいに一つ一つ登ると切通のようにせまく高くうす暗い空間にでた。
そこにも滝があって五右衛門風呂のような滝壺があった。その滝壺で泳ぐことも出来たのだが、あまりの神々しさに僕はそれをしなかった。

そして、西表島の自然とこのTripへの感謝の意を込めて、つい二礼二拍一礼をしてしまった。

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